台湾はまもなく春節。
義理実家にいて暇なので、2023年11月16日のことを書こうと思う。
あの11月は、2019年から続いた怒涛の仕事ラッシュが忽然と静まり、
まだ“束の間”の自由を楽しもう、みたいな気楽な気分でいたと思う。
(この時は、この暇な状況が“束の間”どころか
2025年の今の今まで続くとも思っていなかった)
私は毎月1回くらい、銀行と郵便局へ口座の記帳をしに行く。
あの日も台中の文心路沿いの郵便局、合作金庫、玉山銀行、中国信託銀行と
お世話になっている銀行を回る予定だった。
その途中、文心路と熱河路の交差点を、諾貝爾書店から
遠東国際商業銀行のほうへ渡ろうとした時だった。
フラフラと1匹の黒いトイプードルが車道へ出ていくのが見えた。
歩行者数人が見ていたけれど、すぐに動く人はいなかった。
すると通りかかったデリバリーのお兄さんが車道にバイクを停め、
バイクから降りて、犬をさっと抱きかかえた。
お兄さんは歩道で信号を待っていた若い女性に、バイクを動かしたいから
犬を持っていて、と頼んだけれど、女性たちは首を振って横断歩道を渡っていった。
すぐそばにいた私が代わりを引き受けて、犬を受け取った。犬はメスで、首輪はなし。
その後、お兄さんは目の前の遠東国際商業銀行の入っているビルの管理人さんに
聞いてみてくれたけど、そのような犬を飼っている住人はいない、と言う。
たまたま傍にいたパトカーの警察官に聞いてみたら、動物病院がそこにあるから
マイクロチップをスキャンしてもらえ、と言われ、その動物病院へ連れて行った。
後から知ったけれど、台湾も日本と同じで、犬猫を警察に届けると遺失物になる。
でも警察に届けたところで面倒を見てくれはしないから、
台湾では拾ったらまずは短期間、安全な場所で保護してあげて、
SNSなどに写真や特徴などをアップして飼い主を探すのが普通らしい。
動物病院へ連れて行くと、受付のスタッフがマイクロチップを
スキャンしてくれて飼い主に1回電話してくれたけれどつながらず。
平日の昼間だったから仕事などだったのかもしれない。
動物病院のスタッフは、南屯のアニマルシェルターへ連れて行け、と言う。
お兄さんが飼い主の電話番号を教えてもらえないかと聞くと
個人情報だからダメとのこと。そりゃそうか。
(でもだったらもっと何回か掛けてほしかったけどね・・・けっこう冷たい)
今いる北屯から南屯まではちょっと時間がかかる。
お兄さんは仕事中だから、私が代わりにシェルターまで届けることになった。
お兄さんは、外国人で中国語が怪しすぎる私に代わって
タクシーを呼んでくれて、ドライバーさんに事情を説明してくれて、
さらにタクシー代を400元くらい出してくれた。
お兄さん、良い人過ぎる・・・
台湾でデリバリーサービス使ったことないけど、
いつか使うならお兄さんのlalamoveにしようと思ってる。
シェルターまでは30分くらいかかった。
トイプードルは本当に良い子で、知らない人に抱っこされて
知らない場所に連れて行かれているのに、順番に窓の外を
右見て、左見て、前見て、私の顔を見て、と始終楽しそうにしていた。
人を疑わないキラキラした瞳と、くりくりの毛に包まれた
小さくて温かいせわしなく呼吸するお腹の感覚が忘れられない。
トイプードルがこんなに人気がある理由が分かった気がする。
やがてシェルターに着くと、タクシーのドライバーさんが
シェルターの係員さんに事情を話してくれて、外で待ってくれていた。
私はシェルターに預けるための資料を記入した。
資料の内容は、私の名前や住所、どこで拾ったか、とかだったと思う。
そして最後に“今後この犬がどうなったか知ることはできません”
みたいな一文があって、同意を選ばないといけなかったような気がする。
係員さんに、この子はどうなるんですか?と聞いたら
できるだけ飼い主を探します、もし見つからなかったら貰い手を探します、と。
私の手から離れて、毛布すらない冷たい小さな檻に入れられたトイプードルは
ようやく不安そうな顔になり、私も同じ気持ちだったけれどできるのはここまで。
「大丈夫だからね」と声を掛けて、タクシーで最寄りのMRT駅まで送ってもらった。
タクシーのドライバーさんは、運賃の端数はいりません、と言ってくれた。
ここにも優しい人が一人。
MRTの駅に着いて、トイレで堪えきれずひとしきり泣いた。
これでよかったのかな?もっと良い方法があったのでは?
あの子はきっと今朝までは温かい部屋で美味しいご飯をもらって暮らしていたはず。
あのまま冷たいコンクリートの中で暮らすことになったらどうしよう。
ネットで調べたら、台湾は犬猫の殺処分は禁止になったけれど
そのせいでシェルターに収容される動物が増えて、収容環境が悪くなっているらしい。
とくに台中のシェルターは深刻・・・とのこと。
そのままMRTに乗って、途中でコメダ珈琲に寄って
ご飯を食べたり(こんな時でも腹は減る)、Facebookの
犬猫の飼い主を探すグループに参加してそこに書き込んだりして、うちに帰った。
うちに着いて自分ちの猫を見たら泣けてきて、またさんざん泣いた。
あの子は大丈夫なのだろうか?
その後、シェルターのウェブサイトを見たら、あの子の写真が載せられていた。
そして「飼い主に返却」の文字。
またわんわん泣いて、猫を抱きしめた(猫には迷惑だっただろう)。
よかった!本当によかった!
でも、初めて行ったアニマルシェルター。
コンクリートの冷たい建物。たくさんの犬の鳴き声が聞こえた。
あの動物たちに、私ができることがあるはずだ。
この日お世話になったFacebookで登録した飼い主を探すグループの投稿を
今も毎日目にするけれど、本当に悲しい気持ちになる。
私ができることは何だろうか?
外で野良猫を見かけると、どの子も家に連れて
帰りたくなってしまうけれど、それはできない。
まずは今いてくれるうちの猫を最期まで幸せにしてあげること。
これが私がすべきことだ、と自分に言い聞かせる。
その後、いや今でも、あの子たちのために何かできることがあるはず。
この気持ちを忘れないために、あの日のタクシーのレシートは取って置いてある。
デリバリーのお兄さん、タクシーのドライバーさんのことを思い出せるように。
2014年10月28日に新竹で出会った、今うちにいる猫は私を救ってくれた。
私も動物たちに何かしたい。しなければならないと思っている。